劣モジュラ性と限界効用逓減性が同値であることの証明

結構簡単だけど日本語だと見つからなかった(探し方が悪かっただけかもしれない)のでメモ.


 U を集合, f : 2^U \to \mathbb{R} を集合関数とする.
Dfn. 1.  f が劣モジュラ (submodular) であるとは, \forall X, Y \subseteq U, \; f(X) + f(Y) \ge f(X \cup Y) + f(X \cap Y) であること.
Dfn. 2.  f が限界効用逓減 (diminishing returns) とは, \forall X \subseteq Y \subseteq U, \; Z \subseteq U \setminus Y, \; f(X \cup Z ) - f(X) \ge f(Y \cup Z ) - f(Y) \ であること.


Prop. 1.  f が劣モジュラ  \Leftrightarrow  f は限界効用逓減.

pf.
 \Rightarrow の方向:(これはかなり簡単).
 f が劣モジュラと仮定する.仮定より,任意の  X \subseteq Y Z \subseteq U \setminus Y に対して  f(X \cup Z) + f(Y) \ge f(Y \cup Z) + f(X) が成り立つ(劣モジュラ不等式において, X X \cup Z とした).したがって,
 f(X \cup Z) - f(X)  \ge f(Y \cup Z) - f(Y) である.

 \Leftarrow の方向:
 f が限界効用逓減であると仮定する. X, Y\subseteq U を任意に取る. X = Y であれば  X = Y = X \cup Y = X \cap Y だから劣モジュラ不等式は明らかにしたがう.以下, X \neq Y と仮定する.
 X' = X \cap Y とすると, X' \subseteq Y \subseteq U である.また, Z = X \setminus Y とすると, Z \subseteq U \setminus Y である.このとき,仮定より
 f(X' \cup Z) - f(X') \ge f(Y \cup Z) - f(Y)
となるが, X' \cup Z = X, \; Y \cup Z = X \cup Y, \; X' = X \cap Y なので, f(X) - f(X \cap Y) \ge f(X \cup Y) - f(Y) であり,変形すると,
 f(X) + f(Y) \ge f(X \cup Y) + f(X \cap Y)
が言える.(証明終)

高専生活を振り返って

通っていた高専を無事卒業したので,5 年間で印象に残ったことをトピックごとにまとめてみる.

 

授業

いろんな授業があったが,特に覚えているものをいくらか挙げてみる.

政治経済 (2 年)

名物教員の授業で,90 分間ひたすら喋るタイプのもの.話が面白かった.試験が厳しいと言われており,自分も 90 点台後半を取ったことはなかった.とはいえ簡単すぎるよりは難しすぎる方がよいと(個人的には)思う.

熱力学概論 (3 年)

融合学科ということで,情報系なのに熱力学が開講されていた.しかし中身は相当しっかりしていて,暗記にも計算にも偏重しない,教員の本気度を感じるものだった.これに限らず,融合系科目はどれも質の高いものが多かった.

計算科学 (3 年)

要するに数値計算法.内容はところどころ忘れてしまったが,有益な科目だった.冬休みに乱数生成法のレポートを本気で書いたら教員に褒めていただいたのはいい思い出.

制御工学 (4 年)

成績評価のウェイトが前期中間試験から順に 1:2:3:4 という変わった科目.大変だったが,自分としては珍しく入念に予習復習して臨んだこともあって好成績を取れた.

情報理論 (5 年)

プログラミングが苦手でネットワークコースに来た学生を迎え撃つ数学もりもり科目.最後の方は授業についていけている学生が自分くらいだった.試験は簡単だったが.

 

ここには書ききれないが,他にも面白かった授業,大変だった授業,つらかった授業など,多くある.世の高専生が言うように"虚無"の授業もないことはないが,そんな授業からも汲み取れる点は確かにあった*1

それなりに勉強したこともあり,卒業式では卒業生総代を務めさせてもらった上,優秀賞を頂いた.実は 5 年次だけ席次が 1 位でなく,三冠を飾れなかったのは残念ではあるが.

教員

卒研指導教員

この人に出会えたのは高専生活最大の収穫と言っていい.自分が 2 年生のときに着任した若い先生で,よく研究室で雑談した.ソシュール三島由紀夫から楕円曲線論に至るまで本当にいろんな話をしたし,これだけ広範に話題が合う相手は人生で初めてだったので感動した.

卒研をはじめとして,様々な場面で親切にしていただいた.思想 (ideology というより principle) のある人で,折に触れて有益な助言を受けた.真に尊敬できる恩師を得たことは幸運だったと思う.

数学教員 

1 年の基礎数学,3・4 年のゼミなどを担当していた先生.

特に,4 年の数学特別補習*2では,途中から授業を切る学生が続出した*3ので,実質マンツーマンで数学を見てもらった.

2 年次以降は学科が違ったこともあって授業以外での接点は少なかったが,何かと良くしていただいた.卒業式前日,挨拶に伺ったところ,記念にと高木貞治の『初等整数論講義』を譲ってくださった.大事にしたい.

 

そのほか,部活動の顧問や各学年の担任教員には大変お世話になった.

部活

シス研に入って色々やった.わりあい充実していたように思う.

当初は Web プログラミング系でやっていこうと考えていたので,Ruby on RailsPHP を触っていた.1 年のときには先輩のお誘いで Hack U へ参加し,Rails で Web アプリケーションを一から組んだ.後期中間試験そっちのけで Rails チュートリアルを終わらせたのはいい思い出.

その後,パソコン甲子園や JOI の本選出場を通じて,徐々に競技プログラミングの方に向いていった.3 年次ではプロコン競技部門に出場した.結果は伴わなかったが,あの手のゲームソルバを作るのはとても楽しかった.

4 年次以降は,受験勉強や音楽性の違いなどもあって若干足が遠のいた.とはいえ最後まで籍は置いていたし,たまにお節介というか老害ムーブもかましつつ,ちょくちょく関わりを持っていた.

 

シス研での活動を通じてたいへん多くの経験を積めたし,先輩方からもたくさん知見を頂いた.自分も部にいくらか貢献できていたらいいなと思う.優秀な後輩たちには今後ともぜひ頑張ってほしい.

進路

数年前からコツコツ勉強した甲斐あって無事第一志望の大学に合格し,4 月から東京で暮らすことになる.

個人的に,都会が苦手なこと,自分が極度に内気であること,初めての一人暮らしとなること,などなど不安要素が非常に多く,素直に新生活を喜べない状態にあるが,なんとか頑張っていきたい.

将来の不安についていろいろこぼしていたところ,指導教員から以下の言葉を頂いた.先生なりの励ましというかアドバイスだと思う.本当にありがたい.

どれほど悲しみで一杯でも,なにか気晴らしになるようなことに引き込まれたら,その間は幸せになれる.

(パンセ 断章 139 より)

おわりに:私の高専生活とは何だったのか

唐突だが,「うらら迷路帖」という漫画がある.かいつまんで説明すると,生き別れの母を探すために占いの街・迷路町に来た主人公・千矢が,占いの修行を通して成長していく話である.

個人的に,うらら迷路帖のキーワードは「成長」と「出会い」だと考えている.

千矢は当初,母を探すことだけを目的としており,「お母さんに会えないなら,この町にいる意味なんかない」と言い切る.

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(はりかも『うらら迷路帖 1』42 ページ,芳文社,2015 年)

しかし,作品を通じて占いの修行を続け,友人や先生との出会いもあり,終盤では「一番占*4になって,いつか自分の占いでお母さんを見つける」と新しい夢を語るまでになる.

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(はりかも『うらら迷路帖 6』68 ページ,芳文社,2018 年)

 

もう一つ,「出会い」について.うらら迷路帖には,才気煥発な少女・臣が途中から登場する.臣は優等生肌の紺と迷路町で出会い,競い合える相手を得たことを心から喜ぶ.

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(はりかも『うらら迷路帖 4』29 ページ,芳文社,2017 年)

 

翻るに,高専生活で真に得られた(得られる)ものも,また「成長」と「出会い」ではないかと考えている.

自分はプログラマになろうと思って高専に入ったが,高専での学びを通じて数学や情報科学を知り,研究職を志すに至った.高専という,良く言えば多様な,悪く言えば混沌とした環境にいたからこそ,様々な世界を垣間見,新しい目標を抱くことができた.

また,多くの教員や友人と出会い,たくさんのことを学び取れた.先述した通り,自分と話題が合う人間は中学校以前では一人もいなかったので,高専での出会いは新鮮だった.これは学生と教員の距離が近い高専ならではのことだと思う.加えて,学業や部活動で競い合える相手を得たのも,同じく新鮮な体験だった.

高専という組織は毀誉褒貶が激しい.卒業生や在学生が高専について語るとき,よく「高専の環境は素晴らしいが,黙って授業を受けているだけでは何も得られない.自分から動いて高専をフル活用するべきだ」と言われる.この人たちは高専の外に目を向け,外部のイベントなどに参加することに価値を見出している.

その姿勢を批判するつもりは毛頭ないが,自分はむしろ,高専の中での出会いや学びを強調したい.特に,学生と教員(それも,大学院を出た研究者)との距離が近いのは,高専の無二の長所である.後輩たちには是非,教員や優秀な学生との出会いを通して成長し,新しい目標を見つけてほしい.

*1:一例として,力学 II (3 年) を挙げておきたい.担当教員が若く,講義経験が少ないこともあって,どことなくギクシャク感の否めない授業だった.しかし,初回授業でスカラ量とベクトル量について説明したあと,「では,スカラと 1 次元ベクトルは何が違うんでしょうか.この辺の考え方を厳密化するとテンソル解析に繋がります.気になる人は調べてみてください」と話していたのが印象に残っている.高専ではどの授業もその道の研究者が教えるので,ときたま含蓄のある発言がポロッと出る.そういう部分を拾っていくことに楽しみがある.

*2:編入志望者向けの演習科目.

*3:単位が出ない,7 限目で出席がしんどい,などいろいろ理由があるっぽい.

*4:迷路町では占い師が実力によって十番占(見習い)から一番占まで分けられている.

jsarticle + amsthm で付録を使うと定理番号がおかしくなるやつ

卒論執筆のとき困ったので備忘録として.

問題

jsarticle + amsthm において,付録で

\begin{thm}
ほげほげ
\end{thm}

みたいなことをすると,

定理付録 A.1 ほげほげ

として出力される.(本当は,「定理 A.1」のようにしたい)

 

これを防ぐために

\def\thesection{\Alph{section}}

を入れると,今度は目次とかの表示が「付録 A. ぴよぴよ」ではなく「A. ぴよぴよ」となる.

これは,amsthm が定理番号を出力するときに \thesection を呼んでいること,jsarticle では \thesection に「付録」(\presectionname)まで含めていることの合わせ技で発生している.

bxjscls を使うという解決策(参照)があるらしいが,色々あってうまくいかなかった*1

解決策

ここ

\usepackage{regexpatch}
\makeatletter
\regexpatchcmd{\@xthm}
{\c{csname} the\cP\#3}
{\c{@arabic}\c{@xp}\c{@nx}\c{csname} c@\cP\#3}{}{}
\makeatother

を拝借する.プリアンブルに置くだけでよい.

おわりに

なんというか秘伝のタレ感がある.本質的には,指定の卒論スタイルファイルのドキュメントクラスを変更することで解決すべきな気がする.

 

*1:卒論スタイルファイルが指定されており下手にいじれなかった,とか.

ELECOM のトラックボール HUGE (M-HT1URX) のチャタリングを直す

はじめに

M-HT1URX が購入後 8 ヶ月くらいでチャタるようになったので分解修理しました*1

分解にあたっては以下の記事を参考にしたので,本記事は半分くらいそれの焼き直しになっています.

エレコム製トラックボールHUGEのチャタリング修理とギシギシ改善方法 | 日本霜降社

 

本記事を読んで分解される場合は自己責任でお願いします.

 

分解する

1. 裏面のゴムを剥がす

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4 つ付いてるゴムをべりっと剥がします.

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丁寧に剥がさないとこんな風に接着剤が残ってかなり嫌な感じになります.

 

2. ネジを外す

ゴムの後ろにあった 6 つのネジと,ボールの裏にある 2 つのネジを外します.前掲記事ではトルクスネジとなっていましたが,自分の場合は普通のプラスネジでした.

(2022/9/10 追記)

以下のコメントをいただきました (情報提供ありがとうございます!).中央にもう一本ネジがあるそうです.

ネジですが真ん中あたり、 MADE IN CHAINAあたりにもう一本あります。
突き破るようにドライバーを刺して穴を開けてネジを外せば特に力なく開けることができました

3. 開ける

横から本体をこじ開けます.当初は全体(手のひらを置くとことか)を一気に開けると思い込んでおりやたら苦戦しましたが,チャタリングを直すだけなら左側(左クリックやホイールがある部分)だけ外せばよいです.

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いま気づいたんですが,側面のほこりがすごい.

 

女子小学生すぎて外すのにめちゃくちゃ苦労しました.小学生の方が分解するときは大人に手伝ってもらうとよいと思います.ちなみに私の握力は 28 kgf とかです.

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ベキッって音がして一瞬ビビりましたが,なんかいい感じに外せました.

 

白い帯みたいなやつを外すと左側が取れます.写真には写っていませんが,接続部分にある黒いパーツをカチっと上げてやると白い帯は外せます.

 

4. スイッチに接点復活剤を吹きつける

やっと本丸にたどり着きました.記事では一瞬ですが,実際には持ち前の不器用さを遺憾なく発揮してここまで 30 分くらいかかっています.

3 つあるプラスネジを外せば基盤を取ることができます*2.ちなみにこのときネジを 1 つ失くしましたが,残り 2 つで固定できてればまあ動くだろという適当な推測のもと続行しました.こういう杜撰な人間がエンジニアの卵として高専を卒業することに不安を感じる.

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ホイールが汚れている気がしますがひとまず無視して,スイッチを直します.基盤の左下にある直方体が左クリック用のスイッチです.こいつに接点復活剤を吹きつけます.

 

接点復活剤はコメリとかで買えます.100 均にあるだろと高をくくっていたら全然そんなことはなくて,900 円くらいしました.

 

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エイムが下手すぎて周辺がびちょびちょになっている…….

 

前掲記事に

たらした後は、ピンセットの先などの汚れていないモノでスイッチを30回くらいカチカチして、もう1回たらしてカチカチして、というのを4セットくらいやりましょう。

とあったので,その通りにします. 

 

5. 元に戻す

これまでと逆の順番で戻していきます.つまり,

基盤のネジをしめる→白い帯を繋げる(黒い留め具をしめる)→左側部分を本体に嵌める→ボール裏のネジをしめる→ゴム裏のネジをしめる→ゴムを貼り付ける

の順でやればよいです.白い帯を繋げるときは裏表に注意します.左側部分を嵌める前に一度マウスを PC に繋いで動作確認をするとよいと思います.

おわりに

以上でチャタリング修理は終わりです.直す過程でどこかをうっかり壊している可能性もありますし,そうでなくてもどうせ数ヶ月したらチャタリングが再発するそうなので,そうなったら潔く新品を買いましょう.

実はマウスの分解は人生初だったので死ぬほど疲れました.労力を考えるとはじめから新品を買った方がよかったかもしれません.

 

*1: 8 ヶ月というのは短いように思えますが,一時期リモート授業とかで一日中 PC に張りついていたのでまあ自然なところでしょう.

*2:別に基盤を取る必要はないかもしれません.

シャミ子のしっぽの材質を偏微分方程式から求める

はじめに

『まちカドまぞく』1 巻に,以下のようなおまけイラストがあります.

f:id:villach:20210129163502p:plain

(伊藤いづも『まちカドまぞく 1 巻』86 ページ,芳文社,2015 年)

 

かわいいですね.

 

「冷たさをかんじるまで 1.5 秒かかる」という記述をもとに,シャミ子のしっぽの材質を推定していきたいと思います. 

前提

以下の仮定を置きます.

  • シャミ子のしっぽは直線.
  • しっぽ先端(もんもがペットボトルを当てている部分)の座標は  0,しっぽ付け根の座標は  L
  • しっぽには神経が通っておらず,付け根の神経で温度を感じる.付け根の神経から脳までの伝達にかかる時間は無視する.
  • 普段,しっぽ内の温度は一様.
  • シャミ子のしっぽの温度拡散率は  \kappa,平熱は  T_0
  • もんもが当てたペットボトルにより,シャミ子のしっぽ先端は  T_c だけ急激に冷やされる.

式をきれいにするため,しっぽ長は以下  L で書くことにしますが,一応ここで  L の値を推定しておきます.

計算

(注意:この節は本質的には熱伝導方程式を解いているだけであり,結論だけ知りたい人は読まなくてもいいと思います)

しっぽ内の温度を  u(x, t) で書きます.Fourier の法則とエネルギー保存則を連立すると,

 \displaystyle{ \frac{\partial u}{\partial t} = \kappa \nabla^2 T = \kappa \frac{\partial^2 u}{\partial x^2}  }

なる偏微分方程式を得ます.仮定より,初期条件は

 \displaystyle{ u(x, 0) = -T_c \delta (x) + T_0}

です.

この初期値問題を解いて,「冷たさをかんじるまで 1.5 秒」という事実と連立して温度拡散率  \kappa を求めれば,シャミ子のしっぽの材質が分かります.

 u(x, t) x に関する Fourier 変換を  U(\xi, t) とします.適当な条件の元で計算すると,

 \displaystyle{ \mathcal{F}\left[ \frac{\partial u}{\partial t} \right] = \frac{\partial U}{\partial t} }
 \displaystyle{ \mathcal{F} \left[ \frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \right] = -\xi^2 U(\xi, t) }

となります.元々の偏微分方程式に代入すると,

 \displaystyle{ \frac{\partial U}{\partial t} = -\kappa \xi^2 U}

という常微分方程式になります.これを解くことはやさしくて,

 \displaystyle{ U(\xi, t) = \mathcal{F} [u(x, 0)] \exp(-\kappa \xi^2 t) }

となります.あとは両辺を逆 Fourier 変換すれば  u が求まります.

 

 \displaystyle{ \mathcal{F}^{-1} [ \exp(-\kappa \xi^2 t) ] = \frac{1}{2\sqrt{\pi \kappa t}} \exp\left(-\frac{x^2}{4\kappa t}\right) }

を利用すると,

 \displaystyle{ u(x, t) = \frac{1}{2\sqrt{\pi \kappa t}} \exp\left(-\frac{x^2}{4\kappa t}\right) * u(x, 0) }

と書けます.

 

最終的に,

 \displaystyle{ u(x, t) = \frac{1}{2\sqrt{\pi \kappa t}} \int_{-\infty}^{\infty} \{ -T_c \delta(x - \zeta) + T_0 \} \exp\left(-\frac{\zeta^2}{4\kappa t}\right) d\zeta }

 \displaystyle{ = -\frac{T_c x}{2\sqrt{\pi \kappa t}} \exp\left(-\frac{x^2}{4\kappa t}\right) + T_0 }

が求まりました.

 

ここまでで結構疲れた気もしますが,更に  \kappa を求める必要があります.以下, u_L (t) = u(L, t) とします.加えて,やや強引ではありますが,「つめたさを感じる」を「 u_L(t) が極小値を取る」と解釈します.すなわち,

 \displaystyle{ \frac{du_L}{dt} = \frac{T_c L}{8 \kappa t \sqrt{\pi \kappa t} } \exp \left(-\frac{L^2}{4 \kappa } \right) \left( 2 \kappa - \frac{L^2}{t} \right) }

 t= \tau \; (= 1.5 \, [s]) で  0 となるような  \kappa を求めればよいわけです.

 

したがって,

 \displaystyle{ \kappa = \frac{L^2}{2\tau} }

となります.お疲れさまでした.

しっぽ長  L について

あとは  L さえ測定すればよいのですが,力尽きたので漫画から適当に見積もります.

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(伊藤いづも『まちカドまぞく 1 巻』82 ページ,芳文社,2015 年)

これを見るに,だいたい  L = 1.5 \, [m] としておけばよいんではないでしょうか.

物質の推定

 \kappa = 1.5^2 / (2 \times 1.5) = 0.75 \, [m^2 / s] となりました.

Thermal diffusivity - Wikipedia などを見ると,最も熱拡散率の高い物質で  0.0012 \, [m^2 /s ] であり,黒鉛,純銀,純金などの高熱拡散率の素材でも  0.75 \, [m^2 / s ] を越えることはないようです.

要するに,シャミ子のしっぽはこの世ではありえないほど敏感ということです.かわいいですね.

おわりに

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(伊藤いづも『まちカドまぞく 1 巻』86 ページ,芳文社,2015 年)

 

どこかで計算をミスしている気しかしないので気づいたら教えてください.

2020年を振り返って

学業

7 月に大学編入学試験を控え,前半期はそれに忙殺されていた.結果としては,第一志望であった東京大学工学部に合格し,理想的な形で進路を決められることになった.受験に際して色々な形でお世話になった家族・教職員・友人・知人に感謝している.

編入試験に向けての半年間,これまでの人生でもっとも一生懸命勉強したように思う.4 年生の頃からの累計で 2,000 時間ほど勉強していたらしい*1.その結果が東大合格という目に見える形で表れたのはもちろん嬉しいが,それだけでなく,物理学や英語の知識が身についたのも有益だったと思う.特に電気磁気学に対する苦手意識を払拭できたのは大きいのではないか.

編入試験体験記は書くぞ書くぞと言いつつ結局書かずじまいだった.個人的な相談には乗るので,私に何かしら聞きたいという物好きがいれば Twitter あたりでコンタクトを取ってほしい.

8 月以降は,ある程度肩の力を抜きつつ,編入学後の学業・研究を見据え,理工学一般の基礎知識を固めることを目標として勉強した.具体的には,数学(代数学線形代数学・集合と位相),コンピュータアーキテクチャ,暗号理論の基礎などを学んでいた.

また,10 月には数検 1 級にリベンジし,無事合格した.前回と同じくほとんど一夜漬けだったにもかかわらず合格できたのは,確率統計の大問を取れたからだと思う.数学の復習にもなってよかった.

読書

今年は漫画を読む頻度が激増した点で特筆すべき一年だった.というのも,1 月から 7 月にかけて編入対策に脳のリソースが割かれており,小難しい活字を読む気になれず,結果として小休憩のたびに読める漫画が主軸を担うことになったからだ.多分今年に入って読んだ漫画の総数は 200 冊を超えていると思う.

 

まずハマったのが『まちカドまぞく』と『ゆるゆり』で,受験勉強のストレスを解消するため両作品には大変お世話になった.

ゆるゆり (1) 新装版 (IDコミックス 百合姫コミックス)

ゆるゆり (1) 新装版 (IDコミックス 百合姫コミックス)

  • 作者:なもり
  • 発売日: 2015/06/18
  • メディア: コミック
 

 
うらら迷路帖』も全巻読んだが,キャラにせよ風景にせよイラストのクオリティが素晴らしく,個人的には結構ハマった.きらら系には珍しくストーリーがあるのも新鮮.


芳文社のセールで買った『こみっくがーるず』もなかなか良かった.かおす先生が少しずつ進歩していくのが感動的.

 
この並びで出すと違和感が強いものの個人的に楽しめたのが『孤独のグルメ』.ネットでコラ画像を作られている印象しかなかったが,実際読んでみると食事以外の描写が多く,五郎の失敗や雑念がたくさん描かれているのが面白かった.全体の 8 割ほどが店を探して歩き回る描写に費やされる回もある.ちなみに,主人公がアームロックをかける回もちゃんとある.

孤独のグルメ 【新装版】

孤独のグルメ 【新装版】

  • 作者:久住 昌之
  • 発売日: 2008/04/22
  • メディア: コミック
 

 

野望の王国』は東大に受かったので(?)読んだ.普段こういう感じの漫画を読まないので,劇画調のタッチといい暴力的なストーリーといいかなり新鮮に感じた.結局引き込まれるようにして全巻読破した.個人的には露悪的なマッチョイズムには若干の嫌悪感を覚えなくもないが.

野望の王国 完全版 1

野望の王国 完全版 1

 

 

その他,『らき☆すた』や『けいおん!』のような古典に手を出したり,『メイドインアビス』を友人に勧められて借りて読んだりと,去年比でたくさん漫画を読んだ一年だった.一方で,読むジャンルが相変わらずきらら・百合姫の日常系からあまり出ておらず,変化がないとも言える.別に漫画に対する思い入れが強いわけでもないので,まあ変化がなくてもそれでいいんじゃないかとは思っている.

読んだ漫画の一覧(昨年から継続して読んでいるものも含む):

・『ゆるゆり
・『まちカドまぞく』
・『スローループ』
・『うらら迷路帖
・『こみっくがーるず
・『あんハピ♪
・『私を球場に連れてって!』
・『怜 -Toki-』
・『理系の人々』
・『孤独のグルメ
・『ぽんこつポン子』
・『ぼっち・ざ・ろっく!』
・『メイドインアビス
・『アズールレーン びそくぜんしんっ!』
・『お兄ちゃんはおしまい!』
・『キルミーベイベー
・『きんいろモザイク
・『けいおん!
・『らき☆すた
・『あいうら
・『桜 Trick
・『私に天使が舞い降りた!』
・『おちこぼれフルーツタルト』
・『大家さんは思春期!
・『トモダチヅクリ』
・『野望の王国
・『失踪日記
・『アル中病棟』
・『女神のスプリンター』
・『グラップラー刃牙
・『野原ひろし昼メシの流儀』
・『はるかなレシーブ
・『私の百合はお仕事です!』
・『アニマエール!』
・『selector infected WIXOSS -Re/verse-』*2
・『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!
・『ご注文はうさぎですか?
・『ゆゆ式
・『GA 芸術科アートデザインクラス
・『小森さんは断れない!
・『ひだまりスケッチ

 

活字の方は,1 月に 2 冊を勢いで読んだあとはほとんどノータッチのまま 7 月まで過ごした.編入試験が終わってからは,引越し前に積読を消化しておきたいこともあって比較的よく読んだ.

 

去年から積んであった『近代日本の政治家』は,岡義武だな~~という感じのいい一冊だった.原敬にやや批判的なあたりは自分と意見を異にするが.

近代日本の政治家 (岩波文庫)

近代日本の政治家 (岩波文庫)

  • 作者:義武, 岡
  • 発売日: 2019/10/17
  • メディア: 文庫
 

 

『日本の地方議会』は,地方自治に興味が湧いてきたので,『日本の地方政府』とあわせて読んだ.地方議会の実情を実地調査とデータの両方から丁寧に説明した上で,議会制度の多様化という方向性を打ち出しており,かなり面白かった.同時に,自分の地方自治に関する知識がいかに薄弱だったかということも読んでいて痛感した.

 

『大衆の反逆』は卒研の指導教員に勧められて読んだ.前半の大衆論は,この方面の知識がない自分にとっては新鮮なものがあった.一方で後半の歴史哲学的な議論はうまくのみこめなかったように思う. 

大衆の反逆 (ちくま学芸文庫)

大衆の反逆 (ちくま学芸文庫)

 

 

イスラム飲酒紀行』は,成人を迎えて酒を飲むようになり,色々と興味が湧いてきたのでなんとなく手に取った.結果としては大当たりで,軽妙な語り口に引き込まれるようにして読んだ.個人的にルポの類が好きなのかもしれない.

 

イスラム飲酒紀行 (SPA!BOOKS)

イスラム飲酒紀行 (SPA!BOOKS)

 

 

読んだ活字の一覧:

入江昭『日本の外交』
・美川圭『院政
志賀直哉小僧の神様/城の崎にて』
五味太郎『大人問題』
岩淵悦太郎『悪文』
・吉田裕『日本人の歴史認識東京裁判
城山三郎『落日燃ゆ』
・三谷太一郎『日本の近代とは何であったか』
・三輪公忠『松岡洋右
丸山真男/加藤周一『翻訳と日本の近代』
・岡義武『転換期の大正』
カミュ『異邦人』
・ジョン・W・ダワー『敗北を抱きしめて』
・岡義武『近代日本の政治家』
・小山俊樹『五・一五事件
辻陽『日本の地方議会』
・曽我謙悟『日本の地方政府』
早野透田中角栄
オルテガ『大衆の反逆』
丸山真男『日本の思想』
ノイマン『計算機と脳』
・金成隆一『ルポ トランプ王国』
星新一『宇宙のあいさつ』
吉村昭『総員起シ』
デカルト方法序説
・広中一成『牟田口廉也 「愚将」はいかにして生み出されたのか』
・佐藤昭『私の田中角栄日記』
林芳正/津村啓介『国会議員の仕事』
・荻野富士夫『特高警察』
・ロバート・ダニエルズ『ロシア共産党党内闘争史』
・岩瀬達哉『われ万死に値す』
高野秀行イスラム飲酒紀行』
・岩井忠熊『西園寺公望

 

その他

今年は社会情勢も影響し,勉強と読書で日々を過ごす起伏のない一年だった.あまり遠出もしなかったように思う.そのため勉強のことと読んだ本のことしか書くことがないのだが,一応その他の事項についても触れておきたい.

卒業研究

今年は高専 5 年目の年だった.思えばあっという間の 5 年間だった.

当然だが卒業研究があり,編入試験終了後はそっちをずっとやっていた.専門の近い教員がいないため色々と難儀したが,一応自分なりに満足のいく成果が出たと言っていい.

大学でも同じテーマで研究を続けようかと思っていたが,最近はその考えも揺らぎつつある.必ずしも最初に選んだ研究対象に固執しなくてもよいのではないか,ということを教員に言われて,それもそうかと思ったので.

9 月に成人し,以降酒を飲むようになった.はじめはウイスキーが多かったが,最近は日本酒をよく飲む.

自分ではそうでもないと思っているが,周りからは「飲む頻度が高すぎるから酒を控えたほうがよい」と忠告される.ある教員には『失踪日記 2 アル中病棟』という漫画を渡された.反面教師にしなさいということらしい.

部活

幽霊部員になった.パンデミックの影響もあるが,活動らしい活動はしていない.

運動

9 月から友人とランニングを始めた.当初は周囲に「もって 1 ヶ月」などと見くびられたが,反骨精神でコツコツ続けて今に至る.しかしそろそろしんどい.やめたい.

*1:「らしい」というのは,自分の勉強時間記録がかなり適当で,しかも勉強の合間合間に Twitter をつついていたりしていたから.

*2:本編を読んでいないのにスピンオフから入るのはどうかとも思ったが,めきめき氏の漫画が個人的にとても好きなので.

ブハーリンの遺言について

ブハーリンソ連共産党の著名なイデオローグであり,ロシア革命を経てスターリンにより粛清されるまで党を代表する理論家であり続けた.レーニンは遺書においてブハーリンを「党の寵児」と表現している*1

政治的には,ブハーリンは党内右派*2であった.スターリンは,トロツキーカーメネフジノヴィエフの「レニングラード組織」に勝利するために,一時期右派と同盟していた.しかし,農業集団化政策をめぐり,スターリンブハーリンは対立することとなる.その後ブハーリンは一度失脚し,吊し上げを経て復権するが,いわゆる大テロルの時期に再度粛清され,刑死した.

ブハーリンは妻に遺言を残している.その遺言の一部は,日本語版 Wikipedia の記事「ニコライ・ブハーリン」の 2020 年 3 月 15 日版によれば以下の通りである.

無慈悲にして明確な目的をもつにちがいないプロレタリアの斧の前にうなだれ、私はこの世から消え去ろうとしている。おそらく中世のやり方をまねて巨大な力を持ち、組織的な非難をねつ造し、大胆に確信をもって行動する地獄のマシーンを前に無力を感じている。今日所謂NKVDの機関は勲章や名誉欲によって過去のチェカの権威を利用しつつ、スタ(これ以上は恐ろしくてとても言えない)の病的な猜疑心のいいなりになってそれが自業自得であることも知らずに下劣極まりない仕事に精を出している。無思想で腐った何一つ不自由のない役人どもの墜落した組織なのである。

 この遺言には違和感がある.

スタ(これ以上は恐ろしくてとても言えない)

という部分である.

第一に,なんと言うべきか,この表現はあまりにも「人が大粛清について漠然と抱く印象」に近すぎる.

第二に,ブハーリンスターリンと個人的に深い親交があり,このような言い回しをするとは(あまり)思われない.復権期に両者がきわめて親しく家族ぐるみで付き合っていたことは有名である.

この記事を読んで以来違和感をずっと引きずってきたが,今日なんとなく同記事を閲覧したところ,遺言の内容が少し変わっていた.2020 年 8 月 25 日版によれば,当該箇所は以下の通り.

現在、いわゆる内務人民委員部の諸機関の大部分――それは無思想の、腐敗した、充分に生活を保証された官吏の組織に変質し、過去のチェーカーの権威を利用しつつ、スターリンの病的な猜疑心の言うなりになり、それ以上は言うことをはばかるが、勲章と名誉を追い求めて自分の醜悪な事業をつくり出している。

 「これ以上は恐ろしくてとても言えない」に相当する部分は「それ以上は言うことをはばかるが」となり,修飾の対象が変わっている.

 

気になったので,原文を当たった*3.それによると,相当する箇所は

 At present, most of the so-called organs of the NKVD are a degenerate organisation of bureaucrats, without ideas, rotten, well-paid, who use the Chekha’s bygone authority to cater to Stalin’s morbid suspiciousness (I fear to say more) in a scramble for rank and fame, concocting their slimy cases

となっている.したがって,Wikipedia 日本語版の記述は,明らかに最新のものが正しい.

 

それにしても,「スタ(これ以上は恐ろしくてとても言えない)」のような謎の訳はどのように生み出されるのか.2020 年 3 月 15 日版では遺書の出典が明記されていないためよくわからない.エジョフが妻を粛清したという明らかな誤りが書かれていたこともあったがWikipedia 日本語版の記述の信憑性に疑念を持たざるを得ない.

*1:"Bukharin is not only a most valuable and major theorist of the Party; he is also rightly considered the favourite of the whole Party".Letter to the Congress より

*2:この「右派」「左派」という語には注意が必要である.通常の意味で解釈するべきではない.

*3:言語が英語なのは,ロンドンにて出版されたアンナ(ブハーリンの妻)の回想録が出典であるため.