シャミ子のしっぽの材質を偏微分方程式から求める

はじめに

『まちカドまぞく』1 巻に,以下のようなおまけイラストがあります.

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(伊藤いづも『まちカドまぞく 1 巻』86 ページ,芳文社,2015 年)

 

かわいいですね.

 

「冷たさをかんじるまで 1.5 秒かかる」という記述をもとに,シャミ子のしっぽの材質を推定していきたいと思います. 

前提

以下の仮定を置きます.

  • シャミ子のしっぽは直線.
  • しっぽ先端(もんもがペットボトルを当てている部分)の座標は  0,しっぽ付け根の座標は  L
  • しっぽには神経が通っておらず,付け根の神経で温度を感じる.付け根の神経から脳までの伝達にかかる時間は無視する.
  • 普段,しっぽ内の温度は一様.
  • シャミ子のしっぽの温度拡散率は  \kappa,平熱は  T_0
  • もんもが当てたペットボトルにより,シャミ子のしっぽ先端は  T_c だけ急激に冷やされる.

式をきれいにするため,しっぽ長は以下  L で書くことにしますが,一応ここで  L の値を推定しておきます.

計算

(注意:この節は本質的には熱伝導方程式を解いているだけであり,結論だけ知りたい人は読まなくてもいいと思います)

しっぽ内の温度を  u(x, t) で書きます.Fourier の法則とエネルギー保存則を連立すると,

 \displaystyle{ \frac{\partial u}{\partial t} = \kappa \nabla^2 T = \kappa \frac{\partial^2 u}{\partial x^2}  }

なる偏微分方程式を得ます.仮定より,初期条件は

 \displaystyle{ u(x, 0) = -T_c \delta (x) + T_0}

です.

この初期値問題を解いて,「冷たさをかんじるまで 1.5 秒」という事実と連立して温度拡散率  \kappa を求めれば,シャミ子のしっぽの材質が分かります.

 u(x, t) x に関する Fourier 変換を  U(\xi, t) とします.適当な条件の元で計算すると,

 \displaystyle{ \mathcal{F}\left[ \frac{\partial u}{\partial t} \right] = \frac{\partial U}{\partial t} }
 \displaystyle{ \mathcal{F} \left[ \frac{\partial^2 u}{\partial x^2} \right] = -\xi^2 U(\xi, t) }

となります.元々の偏微分方程式に代入すると,

 \displaystyle{ \frac{\partial U}{\partial t} = -\kappa \xi^2 U}

という常微分方程式になります.これを解くことはやさしくて,

 \displaystyle{ U(\xi, t) = \mathcal{F} [u(x, 0)] \exp(-\kappa \xi^2 t) }

となります.あとは両辺を逆 Fourier 変換すれば  u が求まります.

 

 \displaystyle{ \mathcal{F}^{-1} [ \exp(-\kappa \xi^2 t) ] = \frac{1}{2\sqrt{\pi \kappa t}} \exp\left(-\frac{x^2}{4\kappa t}\right) }

を利用すると,

 \displaystyle{ u(x, t) = \frac{1}{2\sqrt{\pi \kappa t}} \exp\left(-\frac{x^2}{4\kappa t}\right) * u(x, 0) }

と書けます.

 

最終的に,

 \displaystyle{ u(x, t) = \frac{1}{2\sqrt{\pi \kappa t}} \int_{-\infty}^{\infty} \{ -T_c \delta(x - \zeta) + T_0 \} \exp\left(-\frac{\zeta^2}{4\kappa t}\right) d\zeta }

 \displaystyle{ = -\frac{T_c x}{2\sqrt{\pi \kappa t}} \exp\left(-\frac{x^2}{4\kappa t}\right) + T_0 }

が求まりました.

 

ここまでで結構疲れた気もしますが,更に  \kappa を求める必要があります.以下, u_L (t) = u(L, t) とします.加えて,やや強引ではありますが,「つめたさを感じる」を「 u_L(t) が極小値を取る」と解釈します.すなわち,

 \displaystyle{ \frac{du_L}{dt} = \frac{T_c L}{8 \kappa t \sqrt{\pi \kappa t} } \exp \left(-\frac{L^2}{4 \kappa } \right) \left( 2 \kappa - \frac{L^2}{t} \right) }

 t= \tau \; (= 1.5 \, [s]) で  0 となるような  \kappa を求めればよいわけです.

 

したがって,

 \displaystyle{ \kappa = \frac{L^2}{2\tau} }

となります.お疲れさまでした.

しっぽ長  L について

あとは  L さえ測定すればよいのですが,力尽きたので漫画から適当に見積もります.

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(伊藤いづも『まちカドまぞく 1 巻』82 ページ,芳文社,2015 年)

これを見るに,だいたい  L = 1.5 \, [m] としておけばよいんではないでしょうか.

物質の推定

 \kappa = 1.5^2 / (2 \times 1.5) = 0.75 \, [m^2 / s] となりました.

Thermal diffusivity - Wikipedia などを見ると,最も熱拡散率の高い物質で  0.0012 \, [m^2 /s ] であり,黒鉛,純銀,純金などの高熱拡散率の素材でも  0.75 \, [m^2 / s ] を越えることはないようです.

要するに,シャミ子のしっぽはこの世ではありえないほど敏感ということです.かわいいですね.

おわりに

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(伊藤いづも『まちカドまぞく 1 巻』86 ページ,芳文社,2015 年)

 

どこかで計算をミスしている気しかしないので気づいたら教えてください.