2020年を振り返って

学業

7 月に大学編入学試験を控え,前半期はそれに忙殺されていた.結果としては,第一志望であった東京大学工学部に合格し,理想的な形で進路を決められることになった.受験に際して色々な形でお世話になった家族・教職員・友人・知人に感謝している.

編入試験に向けての半年間,これまでの人生でもっとも一生懸命勉強したように思う.4 年生の頃からの累計で 2,000 時間ほど勉強していたらしい*1.その結果が東大合格という目に見える形で表れたのはもちろん嬉しいが,それだけでなく,物理学や英語の知識が身についたのも有益だったと思う.特に電気磁気学に対する苦手意識を払拭できたのは大きいのではないか.

編入試験体験記は書くぞ書くぞと言いつつ結局書かずじまいだった.個人的な相談には乗るので,私に何かしら聞きたいという物好きがいれば Twitter あたりでコンタクトを取ってほしい.

8 月以降は,ある程度肩の力を抜きつつ,編入学後の学業・研究を見据え,理工学一般の基礎知識を固めることを目標として勉強した.具体的には,数学(代数学線形代数学・集合と位相),コンピュータアーキテクチャ,暗号理論の基礎などを学んでいた.

また,10 月には数検 1 級にリベンジし,無事合格した.前回と同じくほとんど一夜漬けだったにもかかわらず合格できたのは,確率統計の大問を取れたからだと思う.数学の復習にもなってよかった.

読書

今年は漫画を読む頻度が激増した点で特筆すべき一年だった.というのも,1 月から 7 月にかけて編入対策に脳のリソースが割かれており,小難しい活字を読む気になれず,結果として小休憩のたびに読める漫画が主軸を担うことになったからだ.多分今年に入って読んだ漫画の総数は 200 冊を超えていると思う.

 

まずハマったのが『まちカドまぞく』と『ゆるゆり』で,受験勉強のストレスを解消するため両作品には大変お世話になった.

ゆるゆり (1) 新装版 (IDコミックス 百合姫コミックス)

ゆるゆり (1) 新装版 (IDコミックス 百合姫コミックス)

  • 作者:なもり
  • 発売日: 2015/06/18
  • メディア: コミック
 

 
うらら迷路帖』も全巻読んだが,キャラにせよ風景にせよイラストのクオリティが素晴らしく,個人的には結構ハマった.きらら系には珍しくストーリーがあるのも新鮮.


芳文社のセールで買った『こみっくがーるず』もなかなか良かった.かおす先生が少しずつ進歩していくのが感動的.

 
この並びで出すと違和感が強いものの個人的に楽しめたのが『孤独のグルメ』.ネットでコラ画像を作られている印象しかなかったが,実際読んでみると食事以外の描写が多く,五郎の失敗や雑念がたくさん描かれているのが面白かった.全体の 8 割ほどが店を探して歩き回る描写に費やされる回もある.ちなみに,主人公がアームロックをかける回もちゃんとある.

孤独のグルメ 【新装版】

孤独のグルメ 【新装版】

  • 作者:久住 昌之
  • 発売日: 2008/04/22
  • メディア: コミック
 

 

野望の王国』は東大に受かったので(?)読んだ.普段こういう感じの漫画を読まないので,劇画調のタッチといい暴力的なストーリーといいかなり新鮮に感じた.結局引き込まれるようにして全巻読破した.個人的には露悪的なマッチョイズムには若干の嫌悪感を覚えなくもないが.

野望の王国 完全版 1

野望の王国 完全版 1

 

 

その他,『らき☆すた』や『けいおん!』のような古典に手を出したり,『メイドインアビス』を友人に勧められて借りて読んだりと,去年比でたくさん漫画を読んだ一年だった.一方で,読むジャンルが相変わらずきらら・百合姫の日常系からあまり出ておらず,変化がないとも言える.別に漫画に対する思い入れが強いわけでもないので,まあ変化がなくてもそれでいいんじゃないかとは思っている.

読んだ漫画の一覧(昨年から継続して読んでいるものも含む):

・『ゆるゆり
・『まちカドまぞく』
・『スローループ』
・『うらら迷路帖
・『こみっくがーるず
・『あんハピ♪
・『私を球場に連れてって!』
・『怜 -Toki-』
・『理系の人々』
・『孤独のグルメ
・『ぽんこつポン子』
・『ぼっち・ざ・ろっく!』
・『メイドインアビス
・『アズールレーン びそくぜんしんっ!』
・『お兄ちゃんはおしまい!』
・『キルミーベイベー
・『きんいろモザイク
・『けいおん!
・『らき☆すた
・『あいうら
・『桜 Trick
・『私に天使が舞い降りた!』
・『おちこぼれフルーツタルト』
・『大家さんは思春期!
・『トモダチヅクリ』
・『野望の王国
・『失踪日記
・『アル中病棟』
・『女神のスプリンター』
・『グラップラー刃牙
・『野原ひろし昼メシの流儀』
・『はるかなレシーブ
・『私の百合はお仕事です!』
・『アニマエール!』
・『selector infected WIXOSS -Re/verse-』*2
・『私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!
・『ご注文はうさぎですか?
・『ゆゆ式
・『GA 芸術科アートデザインクラス
・『小森さんは断れない!
・『ひだまりスケッチ

 

活字の方は,1 月に 2 冊を勢いで読んだあとはほとんどノータッチのまま 7 月まで過ごした.編入試験が終わってからは,引越し前に積読を消化しておきたいこともあって比較的よく読んだ.

 

去年から積んであった『近代日本の政治家』は,岡義武だな~~という感じのいい一冊だった.原敬にやや批判的なあたりは自分と意見を異にするが.

近代日本の政治家 (岩波文庫)

近代日本の政治家 (岩波文庫)

  • 作者:義武, 岡
  • 発売日: 2019/10/17
  • メディア: 文庫
 

 

『日本の地方議会』は,地方自治に興味が湧いてきたので,『日本の地方政府』とあわせて読んだ.地方議会の実情を実地調査とデータの両方から丁寧に説明した上で,議会制度の多様化という方向性を打ち出しており,かなり面白かった.同時に,自分の地方自治に関する知識がいかに薄弱だったかということも読んでいて痛感した.

 

『大衆の反逆』は卒研の指導教員に勧められて読んだ.前半の大衆論は,この方面の知識がない自分にとっては新鮮なものがあった.一方で後半の歴史哲学的な議論はうまくのみこめなかったように思う. 

大衆の反逆 (ちくま学芸文庫)

大衆の反逆 (ちくま学芸文庫)

 

 

イスラム飲酒紀行』は,成人を迎えて酒を飲むようになり,色々と興味が湧いてきたのでなんとなく手に取った.結果としては大当たりで,軽妙な語り口に引き込まれるようにして読んだ.個人的にルポの類が好きなのかもしれない.

 

イスラム飲酒紀行 (SPA!BOOKS)

イスラム飲酒紀行 (SPA!BOOKS)

 

 

読んだ活字の一覧:

入江昭『日本の外交』
・美川圭『院政
志賀直哉小僧の神様/城の崎にて』
五味太郎『大人問題』
岩淵悦太郎『悪文』
・吉田裕『日本人の歴史認識東京裁判
城山三郎『落日燃ゆ』
・三谷太一郎『日本の近代とは何であったか』
・三輪公忠『松岡洋右
丸山真男/加藤周一『翻訳と日本の近代』
・岡義武『転換期の大正』
カミュ『異邦人』
・ジョン・W・ダワー『敗北を抱きしめて』
・岡義武『近代日本の政治家』
・小山俊樹『五・一五事件
辻陽『日本の地方議会』
・曽我謙悟『日本の地方政府』
早野透田中角栄
オルテガ『大衆の反逆』
丸山真男『日本の思想』
ノイマン『計算機と脳』
・金成隆一『ルポ トランプ王国』
星新一『宇宙のあいさつ』
吉村昭『総員起シ』
デカルト方法序説
・広中一成『牟田口廉也 「愚将」はいかにして生み出されたのか』
・佐藤昭『私の田中角栄日記』
林芳正/津村啓介『国会議員の仕事』
・荻野富士夫『特高警察』
・ロバート・ダニエルズ『ロシア共産党党内闘争史』
・岩瀬達哉『われ万死に値す』
高野秀行イスラム飲酒紀行』
・岩井忠熊『西園寺公望

 

その他

今年は社会情勢も影響し,勉強と読書で日々を過ごす起伏のない一年だった.あまり遠出もしなかったように思う.そのため勉強のことと読んだ本のことしか書くことがないのだが,一応その他の事項についても触れておきたい.

卒業研究

今年は高専 5 年目の年だった.思えばあっという間の 5 年間だった.

当然だが卒業研究があり,編入試験終了後はそっちをずっとやっていた.専門の近い教員がいないため色々と難儀したが,一応自分なりに満足のいく成果が出たと言っていい.

大学でも同じテーマで研究を続けようかと思っていたが,最近はその考えも揺らぎつつある.必ずしも最初に選んだ研究対象に固執しなくてもよいのではないか,ということを教員に言われて,それもそうかと思ったので.

9 月に成人し,以降酒を飲むようになった.はじめはウイスキーが多かったが,最近は日本酒をよく飲む.

自分ではそうでもないと思っているが,周りからは「飲む頻度が高すぎるから酒を控えたほうがよい」と忠告される.ある教員には『失踪日記 2 アル中病棟』という漫画を渡された.反面教師にしなさいということらしい.

部活

幽霊部員になった.パンデミックの影響もあるが,活動らしい活動はしていない.

運動

9 月から友人とランニングを始めた.当初は周囲に「もって 1 ヶ月」などと見くびられたが,反骨精神でコツコツ続けて今に至る.しかしそろそろしんどい.やめたい.

*1:「らしい」というのは,自分の勉強時間記録がかなり適当で,しかも勉強の合間合間に Twitter をつついていたりしていたから.

*2:本編を読んでいないのにスピンオフから入るのはどうかとも思ったが,めきめき氏の漫画が個人的にとても好きなので.

ブハーリンの遺言について

ブハーリンソ連共産党の著名なイデオローグであり,ロシア革命を経てスターリンにより粛清されるまで党を代表する理論家であり続けた.レーニンは遺書においてブハーリンを「党の寵児」と表現している*1

政治的には,ブハーリンは党内右派*2であった.スターリンは,トロツキーカーメネフジノヴィエフの「レニングラード組織」に勝利するために,一時期右派と同盟していた.しかし,農業集団化政策をめぐり,スターリンブハーリンは対立することとなる.その後ブハーリンは一度失脚し,吊し上げを経て復権するが,いわゆる大テロルの時期に再度粛清され,刑死した.

ブハーリンは妻に遺言を残している.その遺言の一部は,日本語版 Wikipedia の記事「ニコライ・ブハーリン」の 2020 年 3 月 15 日版によれば以下の通りである.

無慈悲にして明確な目的をもつにちがいないプロレタリアの斧の前にうなだれ、私はこの世から消え去ろうとしている。おそらく中世のやり方をまねて巨大な力を持ち、組織的な非難をねつ造し、大胆に確信をもって行動する地獄のマシーンを前に無力を感じている。今日所謂NKVDの機関は勲章や名誉欲によって過去のチェカの権威を利用しつつ、スタ(これ以上は恐ろしくてとても言えない)の病的な猜疑心のいいなりになってそれが自業自得であることも知らずに下劣極まりない仕事に精を出している。無思想で腐った何一つ不自由のない役人どもの墜落した組織なのである。

 この遺言には違和感がある.

スタ(これ以上は恐ろしくてとても言えない)

という部分である.

第一に,なんと言うべきか,この表現はあまりにも「人が大粛清について漠然と抱く印象」に近すぎる.

第二に,ブハーリンスターリンと個人的に深い親交があり,このような言い回しをするとは(あまり)思われない.復権期に両者がきわめて親しく家族ぐるみで付き合っていたことは有名である.

この記事を読んで以来違和感をずっと引きずってきたが,今日なんとなく同記事を閲覧したところ,遺言の内容が少し変わっていた.2020 年 8 月 25 日版によれば,当該箇所は以下の通り.

現在、いわゆる内務人民委員部の諸機関の大部分――それは無思想の、腐敗した、充分に生活を保証された官吏の組織に変質し、過去のチェーカーの権威を利用しつつ、スターリンの病的な猜疑心の言うなりになり、それ以上は言うことをはばかるが、勲章と名誉を追い求めて自分の醜悪な事業をつくり出している。

 「これ以上は恐ろしくてとても言えない」に相当する部分は「それ以上は言うことをはばかるが」となり,修飾の対象が変わっている.

 

気になったので,原文を当たった*3.それによると,相当する箇所は

 At present, most of the so-called organs of the NKVD are a degenerate organisation of bureaucrats, without ideas, rotten, well-paid, who use the Chekha’s bygone authority to cater to Stalin’s morbid suspiciousness (I fear to say more) in a scramble for rank and fame, concocting their slimy cases

となっている.したがって,Wikipedia 日本語版の記述は,明らかに最新のものが正しい.

 

それにしても,「スタ(これ以上は恐ろしくてとても言えない)」のような謎の訳はどのように生み出されるのか.2020 年 3 月 15 日版では遺書の出典が明記されていないためよくわからない.エジョフが妻を粛清したという明らかな誤りが書かれていたこともあったがWikipedia 日本語版の記述の信憑性に疑念を持たざるを得ない.

*1:"Bukharin is not only a most valuable and major theorist of the Party; he is also rightly considered the favourite of the whole Party".Letter to the Congress より

*2:この「右派」「左派」という語には注意が必要である.通常の意味で解釈するべきではない.

*3:言語が英語なのは,ロンドンにて出版されたアンナ(ブハーリンの妻)の回想録が出典であるため.

いたるところ連続だが微分不可能な関数が無数に存在すること

寒くなってきましたね.

タイトルに示す命題について,Banach が Baire の範疇定理(以下,BCT)を用いておこなった証明を紹介します.

1. 微分不可能な関数について

 \mathbb{R} 上の連続関数について考えます.たとえば, y = |x| x = 0微分できないことは周知の通りです.しかし,この関数は  x \neq 0 では微分可能です.
いたるところ連続で,しかもいたるところ微分不可能であるような関数は存在するのでしょうか.Weierstrass はそういった関数を示しました.Weierstrass 関数というやつです.ここでは深堀りしないので,興味のある人は検索してみてください.
そして,そのような関数が(Weierstrass関数に限らず)無数に存在することを示したのが Banach です.

2. BCT について

Banach の証明をフォローする前に,下準備として BCT に触れます.

Thm. 2.1. (BCT)
完備距離空間の稠密な開集合の可算個の共通部分は稠密である.

pf.
略.

BCT をスッと書くと,完備距離空間 X とその開集合  O_n \; (n = 1, 2, \ldots) について,
 \overline{O_n} = X \Rightarrow \overline{\cap O_n} = X
というものです.

 O_n の補集合を考えることで,BCT を閉集合についてのステートメントに言い換えることができます. F_n = O_n^c とします. \overline{O_n} = X \Leftrightarrow F_n は内点を持たない,ということに注意すると,BCT は次のように書けます.

Thm. 2.1. の言い換え
完備距離空間  X とその閉集合  F_n について,
 F_n が内点を持たない  \Rightarrow \cup F_n は内点を持たない

3.  C[0, 1] について

 [0, 1] 上で定義された連続関数全体の集合を  C[0, 1] と書きます. f, g \in C[0, 1] について
 d(f, g) = \max_{0 \le x \le 1} |f(x) - g(x)|
として距離を入れます.

Prop. 3.1.
 C[0, 1] は完備.

pf.
略.

4. Banach の証明

いよいよ本題に入ります.

 C[0, 1] の部分集合  F_n \; (n = 2, 3, \ldots) を,以下の条件を満たす  f \in C[0, 1] の全体として定めます.

ある  0 \le t \le 1 - (1/n) が存在して,任意の  0 \le h \le 1 - t に対して  |f(t + h) - f(t)| \le n |h| が成りたつ.

Banach の証明の流れは以下のようになります.

  1.  F_n C[0, 1]閉集合であることを示す.
  2.  F_n が内点を持たないことを示す.
  3. BCT より, f_0 \notin \cup F_n の存在が保証される.そのような  f_0 がいたるところ微分不可能であることを示す.

 F_n閉集合であること

Prop. 4.1.
 F_n閉集合である.

pf.
 f_i \to g \; (i \to \infty) のとき  g \in F_n を言えばよい.

 i について  t_i が存在し, |f_i (t_i + h) - f_i(t_i)| \le n |h| である. t_i \to s \; i \to \infty として一般性を失わない. |g(s + h) - g(s)| を三角不等式によって上から抑えて変形すると*1 |g(s + h) - g(s)| \le n |h| が言える.これは  g \in F_n にほかならない.

 F_n が内点を持たないこと

Prop. 4.2.
 F_n は内点を持たない.

pf.
 f \in F_n を任意に選び, F_n に属さない  h を取って考える.そのような  h としては,たとえばどこかしらで傾きが  n を上回るようなものがある.任意の  \epsilon > 0 に対して  h \in V_\epsilon (f) となるような  h が取れることが示せる.よって  f F_n の内点ではない. f が任意だったことを思い出すとこれで終わる.

したがって BCT より  f_0 \notin \cup F_n の存在が言えます.そのような  f_0 がいたるところ微分不可能であることを示します.

 f_0 がいたるところ微分不可能であること

Prop. 4.3.
 f_0 はいたるところ微分不可能である.

pf.
 F_n の定義より  f_0 はどのような  t を取ってもある  h が存在して  |f_0 (t + h) - f_0(t)| > n|h| となる.

 f_0 t = t_0 において微分可能だったと仮定する.その場合,ある  \epsilon が存在して, |h| \le \epsilon \Rightarrow |f_0(t_0 + h) - f_0(t_0)|/|h| \le f_0'(t_0) + 1 とできる.

ところで, K = \mathrm{Max}(|f_0(t)| + 1) とおくと,

 |h| \lt \epsilon \Rightarrow |f_0(t_0 + h) - f_0(t_0)| \lt |h| \cdot 2K / \epsilon

となることが言える.したがって, n を適当に取れば  |f_0(t_0 +  h) - f_0| \le n|h| とできる.これは仮定に反する.


後半はやや駆け足だったので飲み込みにくいかもしれません.

距離空間の完備性という概念はもともと  \mathbb{Q} \mathbb{R} の橋渡しとして出てきたものですが,それが実関数という一見関係なさそうな世界で成りたつことには著しい印象を受けます.

*1:ここは結構テクニカルなことをやっているので省略します.

正規部分群,交換子群,可解群

備忘録的に書きます.はてなで書くととても読みづらい.誰かはてなで墓石記号を出力する方法ご存知ないですか…….

1. 正規部分群

Def. 1.1.
 G を群, H をその部分群とする.任意の  g \in G について  gHg^{-1} = H のとき, H正規部分群であるといい, H \triangleleft G と書く.

Exm. 1.2.
 G \{1_G\} は明らかに  G正規部分群

Exm. 1.3.
 G が Abel 群なら,任意の部分群は正規部分群

Prop. 1.4.
 G_1, G_2 が群で  \phi : G_1 \to G_2 が準同型とする.このとき, \ker(\phi) \triangleleft G_1

pf.
 g \in G_1,  h \in \ker(\phi) とする.
 \phi(g h g^{-1}) = \phi(g)\phi(h)\phi(g)^{-1} = \phi(g)\phi(g)^{-1} = 1_{G_2}
となるため, ghg^{-1} \in \ker(\phi).よって  \ker(\phi) \triangleleft G_1 である.(証明終)

Exm. 1.5.
 K を体とする. \det : \mathrm{GL}_n (K) \to K は準同型であり, \ker(\det) \simeq \mathrm{SL}_n (K) である.よって, \mathrm{SL}_n (K) \triangleleft \mathrm{GL}_n (K)

Exm. 1.6.
 G = \mathfrak{S}_3 を考える. \sigma \in G について, \mathrm{sgn} (\sigma) は準同型である.したがって, A_3 = \ker (\mathrm{sgn}) \triangleleft \mathfrak{S}_3 である(Prop. 1.4).ところで, A_3 = \langle (1 \: 2 \: 3) \rangle であることが示せる.よって, A_3 \triangleleft \mathfrak{S}_3 である.

2. 交換子群

Def. 2.1.
 G を群とし, x, y \in G とする.このとき, [x, y] = xyx^{-1}y^{-1} を交換子と呼ぶ. G の交換子全体がなす群を交換子群(あるいは,導来群)と呼び, D(G) と書く.

 G が Abel 群なら  D(G) は trivial.

Prop. 2.2.
 D(G) \triangleleft G がなりたつ.

pf.
 g \in G とする. gD(G)g^{-1} \supset D(G) は明らか. xyx^{-1}y^{-1} \in D(G) について,
 gxyx^{-1}y^{-1}g^{-1} = (gxg^{-1})(gyg^{-1})(gxg^{-1})^{-1}(gyg^{-1})^{-1} \in D(G) だから, gD(G)g^{-1} \subset D(G) もなりたつ.
よって, gD(G)g^{-1} = D(G) なので, D(G) \triangleleft G.(証明終)

Prop. 2.3.
 G/D(G) は Abel 群.

pf.
 \pi : G \to G/D(G) を自然な全射準同型とする.一般に, G とその正規部分群  N について,自然な全射準同型  \pi : G \to G/N の核は  N に一致する.
 x, y \in G について  xyx^{-1}y^{-1} \in D(G) だから, \pi(xyx^{-1}y^{-1}) = 1_{D(G)} である.よって  \pi(x)\pi(y) = \pi(y)\pi(x) \pi全射だから  G/D(G) は Abel 群である.(証明終)

Prop. 2.4.
 N \triangleleft G について, G/N が Abel 群であれば, N \supset D(G) がなりたつ.

pf.
任意の  x, y \in G について  xyN = yxN だから, xyx^{-1}y^{-1} \in N.よって, D(G) \subset N.(証明終)

Rmk.
Prop. 2. 4 の逆も成り立つ.

3. 可解群

Def. 3.1.
 G を群とする.その部分群の減少列  G = G_0 \supset G_1 \supset \cdots \supset G_{n-1} \supset G_n = \{1_G\} があって,任意の  i = 0, \ldots, n-1 に対して  G_{i+1} \triangleleft G_i G_i / G_{i+1} が Abel 群となるとき, G を可解群と呼ぶ.

Exm. 3.2.
Abel 群は可解群である.

Exm. 3.3.
Exm. 1.6 より, A_3 = \langle (1 \: 2 \: 3) \rangle \triangleleft \mathfrak{S}_3 である. (\mathfrak{S}_3 : A_3) = 2 より, \mathfrak{S}_3 / A_3 \simeq \mathbb{Z}/2\mathbb{Z} は Abel 群である. A_3 が Abel 群だから, \mathfrak{S}_3 は可解群である.

編入試験が終わったらやりたいこと

編入試験が一段落したので,今後卒業までにやりたいことをまとめておきます(自分用).

 

数学

研究に備えて数学の基礎をしっかり固めておきたいです.具体的には,

あたりを読んでいきたいと思います.時間が余れば解析方面(Lebesgue 積分とか複素関数論とか)や代数幾何学の厳密なとこにも手を出したいですが,多分余らないでしょう.

研究

現在高専でやっている研究について,少なくとも卒業できる程度の進捗は出しておきたいです.とはいえしばらくはプログラムをこつこつと書いていくだけなので,まあがんばります.

また,計算機科学の基本的な理論についても一通りさらっておいた方がよいと思っています.

語学

英語

編入に向けた勉強でかなり鍛えられた感はありますが,キープするため日常的に英語に触れておきたいです.具体的には,アメリカの新聞を毎日読んでいます.

リーディングはそれでいいんですが,ライティングとスピーキングとリスニングについてはあまり考えていません.一つには海外で過ごす予定がなく,英語論文を読めればまあ足りるという理由があります.ただ,英語で論文を書く機会があるかもしれない(あるかな?)ので,ライティングはやっておいた方がいいかもしれないとは思っています.

第二外国語

実はどの言語をやるか決めかねています.今のところ頭の中にある選択肢はロシア語とフランス語です.前者は,Dostoevsky や Landau-Lifshitz を原著で読める・ロシア史関連の文献を読めるという理由から,後者は,現在研究で扱っている分野で伝統的にフランスが強いという理由からです.

こちらはぼちぼち決めて,ゆるゆると取り掛かりたいと思っています.

プログラミング

しばらくプログラムを書いていなかったのでもう何もわかりません.競プロに復帰したいですが,最近の状況がよくわかりません…….

あとは文化祭に向けてゲーム作ったり,バイトでやってる案件をちゃんと進めたりする予定です.

電子工作

電子工作やりたいな~~~~と思って去年の 8 月くらいにキットやらなんやらを買ったんですが,編入用の勉強をつけたりに放置して全然触っていません.口実が消えたのでやっていきたいです.あと,お金がマジでないのでこれは願望ですが,秋月で売ってる指向性スピーカーを使っていろいろやりたいです.

部屋の一隅で電熱器と化してる Raspberry Pi くんにも何かしら役割を与えてあげるつもりです.

史跡巡り

近場にある歴史系の博物館・記念館や遺跡,近代建築などを巡りたいと思っていましたが,折からのパンデミックで今後どうなるかわからないので,これは保留です.

いい感じの雰囲気になったら,『日本のいちばん長い日』の聖地巡礼にも行きたいです.

読書

信じられないほど積ん読があるので着実に消化していく予定です.今は,去年大量に岩波文庫入りした岡義武の大正史関連の著作を読んでいます.

野球観戦

PC で見ます.今年は贔屓が開幕ダッシュに失敗して最下位付近をウロウロしているのであまり見ないかもしれません.

いつかは現地で見たいと思っていましたが,そもそも球場が遠い上にこの感染拡大状況なので,まあしばらくはいいでしょう.

資格試験

漢検 1 級,数検 1 級などを狙っています.数検はあとひと押しという感じですが,漢検はかなり遠い.絶望的です.

映画

Amazon Prime でウォッチリストに入っている映画を消化したいです.

 

おわりに

これ半年で足りるのか?

『成功による眩惑』――スターリン農業集団化の一時停止を読む

はじめに

よく知られている通り,スターリンは 1920 年代後半以降,農業集団化運動を推し進めた.ずさんな計画に基づいて強引に推進された集団化は強権的な農民徴発を伴い,大規模な反対に遭う.

1930 年 3 月,スターリンは "Dizzy with Success" という論文を発表し,集団化の強引さに対する反省を表明しつつ,集団化運動における「行き過ぎ」「原則からの乖離」の責任を地方の党幹部に押し付けることで中央の免責を図った.これにより,集団化は一時的にブレーキをかけられることとなった*1

この "Dizzy with Success" は,スターリンが書いた論文の中でも歴史的意義が大きいと思われる一方,ネット上に邦訳が出ていない*2.『スターリン全集』あたりには入っているのだろうが,入手が容易ではない.というわけで,適当に訳してみた.

*1:スターリンの盟友であったオルジョニキーゼやカリーニンが集団化に強く反対したことが大きな原因として挙げられる.

*2:翻訳していてつくづく思ったのだが,邦訳が出ていないのには理由がある.スターリンは基本的に地方批判に終始しており,上に書いたような大要で論文の主張が尽くされるため,わざわざ全文を訳す必要がない.しかし言語明瞭意味明瞭という感じで空疎な文章なので,語学の練習には有用だと思われる.

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サンプルサイズのことを母数って呼ぶな

母数(パラメータ)とは母集団の特性値,つまり母平均とか母分散とかを言うのであって,サンプルサイズ,つまり n = 1000 とかの n を言うのではない.

新型コロナウイルスの流行に関連して,「日本は感染者が多いけど母数も多いから率は高くない.統計学の基礎ですよ」みたいなツイートを散見するが,母数とサンプルサイズは違う.統計学の基礎ですよ.

しかしこの誤用は完全に人口に膾炙してしまっており,今からただそうとしても無理かもしれない.