いたるところ連続だが微分不可能な関数が無数に存在すること

寒くなってきましたね.

タイトルに示す命題について,Banach が Baire の範疇定理(以下,BCT)を用いておこなった証明を紹介します.

1. 微分不可能な関数について

 \mathbb{R} 上の連続関数について考えます.たとえば, y = |x| x = 0微分できないことは周知の通りです.しかし,この関数は  x \neq 0 では微分可能です.
いたるところ連続で,しかもいたるところ微分不可能であるような関数は存在するのでしょうか.Weierstrass はそういった関数を示しました.Weierstrass 関数というやつです.ここでは深堀りしないので,興味のある人は検索してみてください.
そして,そのような関数が(Weierstrass関数に限らず)無数に存在することを示したのが Banach です.

2. BCT について

Banach の証明をフォローする前に,下準備として BCT に触れます.

Thm. 2.1. (BCT)
完備距離空間の稠密な開集合の可算個の共通部分は稠密である.

pf.
略.

BCT をスッと書くと,完備距離空間 X とその開集合  O_n \; (n = 1, 2, \ldots) について,
 \overline{O_n} = X \Rightarrow \overline{\cap O_n} = X
というものです.

 O_n の補集合を考えることで,BCT を閉集合についてのステートメントに言い換えることができます. F_n = O_n^c とします. \overline{O_n} = X \Leftrightarrow F_n は内点を持たない,ということに注意すると,BCT は次のように書けます.

Thm. 2.1. の言い換え
完備距離空間  X とその閉集合  F_n について,
 F_n が内点を持たない  \Rightarrow \cup F_n は内点を持たない

3.  C[0, 1] について

 [0, 1] 上で定義された連続関数全体の集合を  C[0, 1] と書きます. f, g \in C[0, 1] について
 d(f, g) = \max_{0 \le x \le 1} |f(x) - g(x)|
として距離を入れます.

Prop. 3.1.
 C[0, 1] は完備.

pf.
略.

4. Banach の証明

いよいよ本題に入ります.

 C[0, 1] の部分集合  F_n \; (n = 2, 3, \ldots) を,以下の条件を満たす  f \in C[0, 1] の全体として定めます.

ある  0 \le t \le 1 - (1/n) が存在して,任意の  0 \le h \le 1 - t に対して  |f(t + h) - f(t)| \le n |h| が成りたつ.

Banach の証明の流れは以下のようになります.

  1.  F_n C[0, 1]閉集合であることを示す.
  2.  F_n が内点を持たないことを示す.
  3. BCT より, f_0 \notin \cup F_n の存在が保証される.そのような  f_0 がいたるところ微分不可能であることを示す.

 F_n閉集合であること

Prop. 4.1.
 F_n閉集合である.

pf.
 f_i \to g \; (i \to \infty) のとき  g \in F_n を言えばよい.

 i について  t_i が存在し, |f_i (t_i + h) - f_i(t_i)| \le n |h| である. t_i \to s \; i \to \infty として一般性を失わない. |g(s + h) - g(s)| を三角不等式によって上から抑えて変形すると*1 |g(s + h) - g(s)| \le n |h| が言える.これは  g \in F_n にほかならない.

 F_n が内点を持たないこと

Prop. 4.2.
 F_n は内点を持たない.

pf.
 f \in F_n を任意に選び, F_n に属さない  h を取って考える.そのような  h としては,たとえばどこかしらで傾きが  n を上回るようなものがある.任意の  \epsilon > 0 に対して  h \in V_\epsilon (f) となるような  h が取れることが示せる.よって  f F_n の内点ではない. f が任意だったことを思い出すとこれで終わる.

したがって BCT より  f_0 \notin \cup F_n の存在が言えます.そのような  f_0 がいたるところ微分不可能であることを示します.

 f_0 がいたるところ微分不可能であること

Prop. 4.3.
 f_0 はいたるところ微分不可能である.

pf.
 F_n の定義より  f_0 はどのような  t を取ってもある  h が存在して  |f_0 (t + h) - f_0(t)| > n|h| となる.

 f_0 t = t_0 において微分可能だったと仮定する.その場合,ある  \epsilon が存在して, |h| \le \epsilon \Rightarrow |f_0(t_0 + h) - f_0(t_0)|/|h| \le f_0'(t_0) + 1 とできる.

ところで, K = \mathrm{Max}(|f_0(t)| + 1) とおくと,

 |h| \lt \epsilon \Rightarrow |f_0(t_0 + h) - f_0(t_0)| \lt |h| \cdot 2K / \epsilon

となることが言える.したがって, n を適当に取れば  |f_0(t_0 +  h) - f_0| \le n|h| とできる.これは仮定に反する.


後半はやや駆け足だったので飲み込みにくいかもしれません.

距離空間の完備性という概念はもともと  \mathbb{Q} \mathbb{R} の橋渡しとして出てきたものですが,それが実関数という一見関係なさそうな世界で成りたつことには著しい印象を受けます.

*1:ここは結構テクニカルなことをやっているので省略します.