第 4 次伊藤内閣の組閣に当たり原敬が西園寺公望へ宛てて送った書簡

入閣運動に相当力を入れている様子が見て取れる.

入閣時のポストとして陸海軍大臣を選択肢に挙げるなどかなり無理を言っているが,この 20 年ほどあと,ワシントン会議の首席全権として派遣された加藤友三郎海相に代わって首相の原が海軍省事務取扱を兼ねることで,部分的に文官の海相(に準ずるポスト)への就任が実現される.原内閣では軍政を文官に移管しようとする動きが僅かながら見られるが,この書簡は,そうした原の志向が 20 年前からあったことをおぼろげに示している.

なお,原文でカタカナだった部分はひらがなに改め,かな遣いはそのままとした.

 

 拝啓 昨日は御邪魔仕候.扨身上の義に付毎々御配慮被成下深謝之至に奉存候.昨日も鳥渡申上置候通色々用事も停滞仕居候に付明晩之汽車にて一と先つ帰坂仕用事相済次第再上之見込に候.

昨日滄浪候之御内話は絶対的に今回入閣出来ずとも限らされとも万一入閣出来さる時は云々との御趣意に拝承仕候処,もし入閣するとせは小生之方にては其刻も申上候通何れ之省にても異議無之候.人は海陸軍之外など申候へ共海陸軍にても少し他国にも実例有る通文官より御採用之事に御断行之御決心なれは小生は夫れも辞せさる所に候得共,是れは到底行はれ間敷.兎に角何れ之省にても小生之方にては高言之様には候得共其任に堪へさるべしなとの考は毛頭無之候に付,もし入閣相成候事ならは別に小生に御相談被下候に及はず辞令書も誰か代りにて拝受被下候て異議無之候.入閣之場合には電報又は電話にて御申越被下候様に昨日願置候得共再考仕候へは夫も必要なしと存候間,御決行之上其旨御通知被成下候て差支無之候.

右様申上候へは頻りに入閣熱心之様に候得共,是れは毎々申上候通小生は入閣致候とて利益更に無之却て収入は減じとさくさ紛れ之入費有之上に退閣後は再ひ何か之事業を見出さヽるを得ずと申如き色々之不利益有之候得共,小生も御承知之通多年政界に在る已上は何れ之方面にか十分之技倆を振え申度など自負心も有之且つ先日来之行掛は今日に至り人繰之都合出来ずなと之申様なる事情には無之と存候故,其心得を以て諸事決行し来りたる事にも候間右様申上置次第に候.

前陳之事情は何卒御序之節重ねて滄浪候に御内話なし置被下候様奉願上候.取急き右申述候.匆々頓首

 十月十六日 敬

 西園寺侯爵閣下 侍史