Mills の定理 ― floor(A^3^n) が常に素数となるような A が存在すること

はじめに

気づいたら定期試験が始まっていました.
それは別にどうでもいいんですが,今回は Mills の定理という面白い定理を見つけたので,ステートメントと証明を紹介したいと思います.かんたんです.

ステートメント

すべての  n \in \mathbb{N} に対し  [A^{3^n}] 素数となるような  A \in \mathbb{R} が存在する.ここで  [ x ]  x の切り捨て,すなわち  x 以下の最大の整数を示す.

証明

(以下は完全に Mills' Theorem - ProofWiki に依拠しています)

Mills の定理は初等的に証明できます.中学数学程度の知識があれば十分でしょう.

以下, p_n n 番目の素数 \mathbb{N} を正整数の全体, \mathbb{P}素数の全体とします.

さて,隣接する素数の差について,以下のような事実が知られています*1
補題 1
ある  K \in \mathbb{N} が存在して,任意の  n \in \mathbb{N} に対し  p_{n + 1} - p_n \lt K {p_n}^{5/8} とできる*2

これを用いて以下の補題を証明していきます.

補題 2
すべての  N \gt K^8 に対し, N^3 \lt p \lt (N+1)^3 - 1 を満たすような  p \in \mathbb{P} が存在する.

証明
 p_n N^3 より小さい最大の素数とします.

 \displaystyle{ \begin{eqnarray} N^3 &\lt& p_{n+1} \\ &\lt& p_n + K{p_n}^{5/8} \\ &\lt& N^3 + KN^{15/8} \\ &\lt& N^3 + N^2  \\ &\lt& N^3 + 3N^2 + 3N \\ &=& (N+1)^3 - 1  \end{eqnarray} }

したがって,
 N^3 \lt p_{n+1} \lt (N+1)^3 - 1
です.(証明終)


いま, P_0 \gt K^8 なる素数  P_0 をとります.補題 2 より,無限数列  P_0, P_1, P_2, \ldots であって, \forall n \in \mathbb{N}, \; {P_n}^3 \lt P_{n + 1} \lt (P_n + 1)^3 - 1 を満たすようなものが存在します.

さらに,写像 u, v : \mathbb{N} \to \mathbb{N} を以下のように定義します.
 u(n) = {P_n}^{3^{-n}}
 v(n) = (P_n + 1)^{3^{-n}}
 3^{-n} > 0 より  u(n) \lt v(n) となることは大丈夫ですね.

こうして定義した  u(n), v(n) について,以下の補題が成り立ちます.
補題 3
任意の  n \in \mathbb{N} に対して, u(n+1) \gt u(n)

証明
 \displaystyle{ \begin{eqnarray}  u(n+1) &=& {P_{n+1}}^{3^{-(n+1)}} \\ &\gt& (P_n^3)^{3^{-n-1}} \\ &=& {P_n}^{3 \times 3^{-n-1}} \\ &=& {P_n}^{3^{-n}} \\ &=& u(n) \end{eqnarray} }
(証明終)

補題 4
任意の  n \in \mathbb{N} に対して, v(n+1) \lt v(n)

証明
 \displaystyle{ \begin{eqnarray} v(n+1) &=& (P_{n+1} + 1)^{3^{-(n+1)}} \\ &\lt& \left( \left( (P_n + 1)^3 - 1 \right) + 1 \right)^{3^{-n-1}} \\ &=& \left( (P_n + 1)^3 \right)^{3^{-n-1}} \\ &=& (P_n + 1)^{3^{-n}} \\ &=& v(n) \end{eqnarray} }
(証明終)


補題 3 から  u(n) が狭義単調増加であることが従います.また, u(n) \lt v(n) かつ  v(n) は狭義単調減少なので, u(n) は上に有界であり,極限値を持ちます(Weierstrass の定理).

いま, A = \lim_{n \to \infty} u(n) とすると, u(n) \lt A \lt v(n) であり,
 {P_n}^{3^{-n}} \lt A \lt (P_n + 1)^{3^{-n}}
すなわち,
 P_n \lt A^{3^{n}} \lt P_n + 1
であるため, [A^{3^{n}}] は任意の  n \in \mathbb{N} について素数となります.

Mills 定数,Mills 素数

さて,上の証明で存在性を確認できた  A ですが,具体的な値はどのようになっているかというと,実は不明です.しかしながら,Riemann 予想が真であると仮定すると,
 A \simeq 1.30637788 \ldots
であることがわかっています*3.これを Mills 定数といいます.

この  A に対して,実際に  [ A^{3^n}] を計算すると,
 [ A^{3^1}] = 2
 [ A^{3^2}] = 11
 [ A^{3^3}] = 1361
 [ A^{3^4}] = 2521008887……
となります.これらが全て素数であることは容易に確認できます.こうして出てくる素数を Mills 素数と呼ぶそうです.以降の値については A051254 - OEIS を参照してください.当たり前ですが,べき乗のべき乗なので  n の増加に従って  A^{3^n} は爆発的に増大します.

*1: Prime gap - Wikipedia などを参照してください.実際は  \theta = 5/8 より精度の良い近似が判明していますが,今回はこれで十分です.

*2: K の値は今のところ判明していないそうです.

*3:A051021 - OEIS を参照してください.