はじめての制御工学:第10講

内容

フィードバック制御系の定常特性について.

第9講では,フィードバック系の過渡特性を望ましいものにするためのコントローラ調整について考えた.今回は定常特性について扱う.

重要な制御仕様としては,

  • ある目標値 r(t)に対して,偏差 e(t)の定常値を可能な限り小さくする.
  • 外乱 d(t)の混入がある状況下で,偏差 e(t)の定常値を可能な限り小さくする.

などが挙げられる.偏差の定常値をそのまんま定常偏差と呼ぶ.

フィードバック系における偏差(の Laplace 変換)は,以下のような式で与えられる.

 E(s) = \frac{1}{1 + P(s)C(s)}R(s) - \frac{P(s)}{1 + P(s)C(s)}D(s)

第一項が目標値に対する伝達関数,第二項が外乱に対する伝達関数となっている.

 r(t)としてステップ関数を考えると, P(s)または C(s)が[s = 0]に極を持っていれば前者の制御仕様を達成できる.また, d(t)としてステップ関数を考えると,系の内部安定性を確保しつつ C(s)が[s = 0]に極を持つようにすれば,後者の制御仕様を達成できる.

一般の目標値および外乱に対してはもう少し弱いことしか言えない.定常偏差が0となるためには, C(s) \mathcal{L}[r(t)], \mathcal{L}[d(t)] と同一の因子を持っていればよい.これは内部モデル原理と呼ばれる.

感想

計算が多くて大変でした.

ところで,この節は毎回小学生並の短文を垂れ流す用途にしか使われていないので,撤廃してもよさそうな気がしてきました.

はじめての制御工学:第9講

内容

PID 制御について(ようやく制御工学っぽいワードが出てきましたね).

第8講であつかった比例制御は Propotion の頭文字を取って P 制御と呼ばれる.単純な制御構成だが有用である.設計パラメータとしては比例ゲイン K_pのみを要する.また,偏差としては現時点でのもののみを受け付ける.過去の偏差がどうであったかは影響しない.

一方,過去の偏差をも含めて制御するのが PI 制御である.PI 制御は,P 制御に I 制御(積分制御)を加えたものである.I 制御は偏差の過去値情報を含んでいる積分 \int_0^t e(\tau) d \tau を要求する.したがって,積分ゲインを K_iとすると,偏差と操作量との間に成り立つ関係(コントローラのはたらき)は以下のようになる(Laplace 変換の積分則を思い出す):

 U(s) = C(s)E(s) = (K_p + \frac{K_i}{s})E(s) = \frac{sK_p + K_i}{s}E(s)

最期に,将来の偏差も考慮に入れる PID 制御について考える.PID 制御は,PI 制御に D 制御(微分制御)を加えたものである.微分ゲインを K_dとすると,コントローラの入出力関係は以下のようになる:

 U(s) = C(s)E(s) = (K_p + \frac{K_i}{s} + sK_d)E(s) = \frac{s^2K_d + sK_p + K_i}{s}E(s)

こうして,PID 制御系の設計に際して扱うべきパラメータは K_p, K_i, K_dの3つであるとわかった.これらのパラメータは系の過渡応答と密接な関係を持っている.パラメータの変化にしたがって系の極がどのように動くかは,根軌跡と呼ばれる図を書いて考える.

感想

遅刻ですね.ごめんなさい.

はじめての制御工学:第8講

内容

制御系の設計について.

コントローラを突っ込むことで制御を行う.特に重要なのは制御系全体を安定に保つことである.

コントローラとして  K_p をとると比例制御と呼ばれる構成になる.フィードフォワード制御系の場合,制御対象が安定ならパラメータを適切にとることで内部安定性を得られる.一方,外乱の影響を比例制御で抑え込むことは不可能である.

フィードバック制御系の場合は,制御対象が不安定でもコントローラのパラメータを適当に選べば内部安定性を得られる.また,外乱の影響を解消できる.

感想

急にボリュームが増えたような気がします.この章をきちんと消化しておきたいので,明日も第8講の学習に充て,第9講を1回パスする予定です.理解が深まって新たな理解を得られれば記事を更新する可能性があります.

はじめての制御工学:第7講

内容

極と安定性について.

系の極の実部がすべて負である場合,最終値定理を使って定常値を計算できる.

任意の応答が有界ならばその系は安定(stable)であると呼ぶ.線形時不変系の場合は単位ステップ応答についてのみ有界性を見ればよい.

分母多項式が高次になると極を具体的に求めるのは困難であるから,Routh の安定判別法を用いて検証する.

感想

ようやく半分ですね.長い道のりだった.

はじめての制御工学:第6講

 内容

2次遅れ系の応答や特性について.

2次遅れ系の伝達関数の一般式は以下のようになる:
 G(s) = \frac{K \omega_n^2}{s^2 + 2 \zeta \omega_n s + \omega_n^2}

かかる伝達関数の極は,
 \alpha, \beta = - \zeta \omega_n \pm \sqrt{\zeta^2 - 1} \omega_n
となり,一般にこれは実数であるとは限らない.

さて,この系のインパルス応答を求めるには伝達関数を逆 Laplace 変換すればよい.式は省略するが, \zetaの値によってインパルス応答は3パターンに分類される.

  •  0 \lt \zeta \lt 1 の場合,不足減衰
  •  \zeta = 1 の場合,臨界減衰
  •  \zeta \gt 1 の場合,過減衰

このうち,不足減衰は振動的である.もう少し一般に言うと,極に虚部が存在する場合,応答は振動する.ステップ応答についても同一である.ただし,ステップ応答の場合,臨界減衰と過減衰ではオーバーシュートが発生しない.

極と応答の関係を詳しく見ると,以下のことがわかる.

  • 極の実部の絶対値が増大するにつれ,応答の収束は早くなる.
  • 極の虚部の絶対値が増大するにつれ,応答の振動周波数は高くなる.

システムが複数の極を持つ(ただし,いずれも実部は負とする)場合,もっとも実部の絶対値が小さいような極がシステムの応答に強い影響を与える.かかる極を代表極と呼ぶ.

感想

急に計算が増えてちょっと慌てちゃいました.

はじめての制御工学:第5講

内容

系の応答特性について.

系にある種の信号(ステップ信号やインパルス信号)を与えたときの応答が,十分な時間を経た後に一定値に収束するかどうか,収束するとしたらどのような値になるか,といった特性を定常特性と呼ぶ.また,初期値から収束に至るまでの応答の変化を過渡特性と呼ぶ.

特性に関する代表的な指標は以下の通り:

  • 定常値:ステップ入力に対する応答y(t)について,t → ∞としたときの極限値
  • 立ち上がり時間:y(t)が定常値の10\%から90\%に達するまでの時間.立ち上がり時間が短いほど系は早く収束する.したがって,立ち上がり時間は系の速応性を評価するための指標である.
  • 遅れ時間:y(t)が初期値から定常値の50%に達するまでの時間.立ち上がり時間と同様な目的の指標.
  • オーバーシュート:y(t)の最大値と定常値との差を,定常値との割合で示したもの.オーバーシュートが大きいと,それだけ系の収束は遅くなる.したがって,オーバーシュートは系の減衰性を示す.
  • 行き過ぎ時間:y(t)が最大値に達したときの t.
  • 整定時間:y(t)が定常値の \pm 5 \%以内に収まるようになるまでの時間.

例として,1次遅れ系の特性について考える.伝達関数は一般に
 G(s) = \frac{K}{Ts + 1}
で表されるが,このときステップ応答は
 y(t) = K(1 - e^{-\frac{t}{T}})
となる.したがって, Tが大きくなるほど速応性は低下する.特に,こうした Tには時定数なる名前がついており,単位ステップ応答が定常値の 63.2 \%に達するまでの時間を表している( t = Tとして計算すればわかる).

また,伝達関数の分母 Ts + 1の根である s = -\frac{1}{T}は,ステップ応答のべき部分に現れていたりする.したがって,伝達関数の極が応答特性に影響を及ぼしていることがわかる.これについては第7講以降で詳しく扱う.

感想

2年次の実験で時定数が出てきた記憶があるんですが,ここでようやく時定数の正体に迫ることができてやや感動的でした.

はじめての制御工学:第4講

内容

ある種の入力(e.g. インパルス信号,ステップ信号,ランプ信号)の入力に対する系の時間的出力を考えたい.すなわち, u(t)なる出力を与えた際のy(t)を見たい.このような場合,応答を計算することになる.

応答を計算するには,入力信号の Laplace 変換と伝達関数Laplace 変換をかけあわせ,逆 Laplace 変換すればよい.特に,単位インパルス関数の Laplace 変換は 1となるため,インパルス応答は伝達関数の逆 Laplace 変換と一致する.

感想

たたみこみ(合成積)について.
以前大日本図書の『新応用数学』でたたみこみの概念に触れたときは,動機が示されず定義から入ったので,若干機械的な印象を受けました.この教科書では,応答の計算という一つのモチベーションのもとに導出してから定義を出していたので,親近感を持つことが多少はできたかな?と思います.